Q.ある社員から、通勤経路を変更したいという希望が出ました。本人の希望を認めた場合、通勤手当の額は増額となりますが、通勤時間はほとんど変わりません。どのような対応をするのが適切でしょうか。
【この記事の著者】 定政社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 定政 晃弘
A. 貴社の就業規則(あるいは給与規程)の中に、通勤手当の支給基準が規定されているかと思います。
ごく一般的な支払基準の一つは以下のとおりです。
「会社が認めた最も合理的かつ経済的な経路および方法で算出した額を支給する」
「ただし、月額〇〇,〇〇〇円を上限とする」
今回ご質問いただいた社員の方が、通勤経路の変更前後でどの程度通勤手当が増え、通勤時間がどの程度変わるのかは分かりませんが、通勤時間が「ほとんど」変わらないにもかかわらず、通勤手当の額は増えてしまうということから、「合理的かつ経済的な経路および方法」とは言えないのではないでしょうか。
社員が申請してきた内容に対し、認めるか認めないかは会社の判断となり、その判断は会社のルールである就業規則等に沿って行う必要がありますから、今回の希望には添えない旨の回答をしていただいて構いません。
それでも通勤事情を本人からヒアリングし、社内で検討した結果、合理的かつ経済的な経路とは言えない場合であっても、認めるケースもあります。
例えば、地方に支店・営業所を多数設けている会社において、ある社員が通勤経路を変更し、バスを新たに利用したいと申し出てきました。そのまま会社の規程に当てはめると、変更は認められない内容です。
規程の内容は「バス代は、居住地または就業場所からの公共交通機関の最寄駅または停留所等までの距離が2km以上の場合に支給する」となっていて、この社員の申告してきた経路は基準に満たなかったのです。
その後、本人の自宅から営業所までの通勤の状況を確認すると、自宅が高台にあり、坂道を徒歩で上り下りする負担が大きいということが分かりました。
最終的にこれは認めてあげざるを得ないという方向になりましたが、先述のとおり規程の基準は満たしていません。
そこで例外的措置として、会社はなぜ、通勤経路の変更を希望するのか具体的事情を明記した稟議書を上げるよう本人に指示しました。
稟議の結果、本人の希望は認められました。
このケースは例外的措置として会社が対応しましたが、何でもかんでも認めてしまうと就業規則が「労働条件と職場規律を集合的、画一的に定めたもの」という役割だったり目的を逸脱してしまうため注意しなければなりません。